岩木川 十三湖~武田地区・車力地区

 岩木川の下流域は、汽水湖である十三湖や広大なヨシ原などの特徴的な河川環境を有しており、この自然は、全国有数のシジミの漁獲やヨシ刈りなど、人の生活と深く関係しながら成り立っている。
 岩木川では、平成18(2006)年より十三湖水戸口から17kmの範囲を主なフィールドとして、1)十三湖の汽水環境、物質循環と食物網、2)ヨシ原の形成・維持機構、生態的機能、3)流域の地形・地質、河川構造、河川流域環境の歴史的変化の把握の3つのテーマから研究を進めており、以下のような研究結果が得られている。
●十三湖の汽水環境、物質循環と食物網
・岩木川では上流域の森林や地質特性だけでなく、中下流域での被覆・土地利用といった集水域特性が、有機物の消費・分解といった河川内プロセスと相互作用しながら水質を形成し、十三湖へ有機物や窒素・リンなどの栄養塩、CaやSiなどのミネラル類を供給していることが分かった。
・ 現地における水質調査から、十三湖の水質形成には塩分や滞留時間が影響することが明らかとなった。
・ 岩木川流域からの物質輸送の観点で、流域の水質およびウォッシュロードのフラックス量調査を行っており、河道改修により十三湖に流入する砂分が減少していることが示唆された。
・ 魚介類の安定同位体分析により、ヤマトシジミが主に十三湖の内部で生産された有機物を利用していることが明らかとなった。
・耳石微量元素分析からコイ科魚類の回遊履歴を解析した結果から、降海経験あるいは明確な塩分フロントを超えて一定期間高塩分域で生活していた個体は見られず、高塩分域に長期間滞在していないことが示唆された。
●ヨシ原の形成・維持機構、生態的機能
人為的な管理(火入れや刈取り)によるヨシ原の維持・形成機構や植生調査の基礎として、ヨシ原の遺伝的多様性やオオセッカからみたヨシ原の生態機能を研究しており、以下のことが明らかとなった。

・ マイクロサテライトマーカーを用いた研究により、浚渫後に回復したヨシ原は種子によるものであり、明治以降安定したヨシ原はヨシの遺伝的多様性が低い。
・ オオセッカが好んで利用する植生のタイプは刈取りや火入れ等の人為的な管理により育っている。
・ オオセッカは、餌サイズに関してコジュリン、コヨシキリに対して有意差がみられ、営巣環境・営巣時期の違いや採餌行動の違いにより給餌メニューの違いが見られている。
 
 岩木川下流の初夏のヨシ  ヨシ原火入れの状  雛鳥に給餌するオオセッカ
●流域の地形・地質、河川構造、河川流域環境の歴史的変化の把握
・ 完新世中期以降の十三湖の環境変遷を把握するため、ボーリングコアによる年代測定と珪藻分析により古環境を復元した結果、十三湖が約4,000~約1,000年前には一時的に淡水環境となっており、それ以降は現在と同じ汽水環境となっていることが明らかとなった。
・ 過去100年程度の岩木川下流域の河川環境変遷および地域社会変遷と河川構造の応答について調べた結果、十三湖は「汽水湖の開発と保全」「健全な水循環と地域社会の存続」の代表地となるべき水域であり、この特徴は今までは比較的良好に保全、維持されてきたが、近年、バランスが崩れつつある。  
 

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